ジョン・メイヤーが2015年から加入しているDead & Company(デッド・アンド・カンパニー)というバンド、JMファンの方なら一度は名前を聞いたことがあるかもしれません。
海外では絶大な人気を誇り、アルバムは一切出していないにも関わらずライブの集客力は凄まじいです。一方で日本ではまだ知名度・人気が高くないというのが2021年時点での実情だと思います。
このバンドでのジョンはボーカル/ギターともに素晴らしく、その完成度は自身名義のライブに引けを取りません。JMファンの方であれば、このバンドを聴くことでジョンの違う一面を見つけることができ、JMファンとしての楽しさが倍増するといっても過言ではありません。
日本国内でもこのバンドの素晴らしさがより広まってほしい、という思いから今回はDead & Company特集とします。
前半はバンドの紹介をしたうえで、後半におすすめの楽曲を紹介します。長いので興味のある部分から読んでいただければと思います。
Dead & Companyとは
歴史
このバンドはGrateful Deadのメンバーが再結集し、ジョン・メイヤー等の新メンバーを加えたうえで始まったプロジェクトになります。下記の流れで簡単にご紹介をしていきます。
- 母体となったGrateful Deadとは何なのか
- ジョンとGrateful Deadの出会い
- Dead and Companyの結成とその後
Grateful Deadとは
1965年にカリフォルニアで結成されたGrateful Deadはアメリカンロックの歴史上でも最重要バンドの1つと言われており、解散後の現在でも膨大な数のファンを抱えています。国内外問わずファンからは「デッド」と呼ばれることが多いです。
楽曲面ではコード進行やメロディがシンプルな一方、ライブ中はサイケデリックな即興演奏が多いです。特にカリスマ的存在であるジェリー・ガルシアのメロディアスなギタープレイは高く評価されており、ローリングストーン誌のギタリストランキングにも毎回ランクインしています。
そのジャムバンド的な側面から、スタジオ盤以上にライブ演奏が評価されるバンドです。長いキャリアの中で開催されたライブの数は膨大であり、公式リリースされているライブ盤の枚数は100枚を優に超えます。
またヒッピー文化の象徴としても語られる存在であり、アメリカンカルチャーに関する書籍には必ず名前が出てくるようなバンドになります。
1995年に中心人物であるジェリー・ガルシアが死去したことでバンドは活動を停止。その後時は流れ、バンドの結成50周年である2015年にGrateful Deadとしての正式な解散コンサートを実施、長い歴史に幕を下ろします。ジョンもこのコンサートには足を運んでいました。
ジョンとGrateful Deadの出会い
ジョンは2011年にストリーミングラジオでデッドの楽曲Altheaを聴き、そこから一気にのめりこんでいったと語っています。これはジョンが肉芽腫で休養する時期の前後であり、休養期間中に大量のデッド音源を聴きこんでいたと思われます。
実際、休養後の2013年ツアーにはその影響が見られました。
- デッドの楽曲を多数カバー
- Queen Of CaliforniaやIf I Ever Get Around To Living等、デッド風の長いアウトロジャム
- ジェリー・ガルシア譲りのミクソリディアンやドリアン、トライアドを多用したギタープレイ
- ジェリー・ガルシアの機材に触発され、Q-TRONやAlembicを使用
Dead and Companyの結成とその後
2013~2014年のツアー以降もジョンのデッド熱は冷めず、2015年2月に三夜連続でジョンが司会を務めたTV番組、the Late Late Showでデッドのオリジナルメンバーであるボブ・ウィアーと共演。ここでの共演がきっかけとなり同年夏にDead & Companyが始動します。
デッドのオリジナルメンバーが中心になって結成されており、演奏楽曲もデッドの楽曲がほとんどです。
メンバーは下記の通りで、楽曲ごとにジョンとボブのどちらかがボーカルをとっています。
- ボブ・ウィアー:
デッドのオリジナルメンバー。リードボーカル、サイドギター - ジョン・メイヤー:
リードボーカル、リードギター - ビル・クルーツマン:
デッドのオリジナルメンバー。ドラム - ミッキー・ハート:
デッドの(ほぼ)オリジナルメンバー。ドラム - ジェフ・チメンティ:
デッドメンバーとは20年以上の共演歴。キーボード - オテイル・バーブリッジ:
元The Allman Brothers Band, Tedeschi Trucks Band。ベース
2015年の結成以降、毎年アメリカ全土をツアーして回っています。会場もスタジアム級が多く、Grateful Deadを継承するプロジェクトとして、今でもファンの支持は絶大であるといえますね。
Grateful Dead時代のカリスマギタリストであるジェリー・ガルシアの後釜ポジションにジョンは就いているため、ポップシンガーの印象が強いジョンの参加を歓迎しないデッドファンも結成発表直後は多かったようです。
ですが、実際にツアーが始まるとジョンのプレイは高く評価され今では多くのファンに支持されており、「デッドを復活させた救世主」と呼んでいるファンもいます。
Dead & Companyでのジョンのプレイは、持ち味であるブルーススタイルとガルシアのスタイルをミックスしたものであり、その唯一無二のサウンドが支持されています。日本国内ではジョンのギターはブルースロックやネオソウル的観点から評価されることが多いですが、アメリカではそれに加えてデッドスタイルでのギターも極めて高い評価を得ています。
Dead & Companyの魅力
ではここからは、JMファンの方向けにDead & Companyの魅力を3つに分けて紹介したいと思います。
- ジョンのギタープレイ
- 楽曲数が豊富
- ツアーが頻繁
ジョンのギタープレイ
このバンドを語る上でジョンのギタープレイは欠かすことができません。
まず音作りの面ですが、ギターはPRS のSuper Eagle, Mccarty 594などのハムバッカーモデルを愛用しており、ジョン=ストラトのイメージとは異なるトーンを聴かせてくれます。その音色はリッチで素晴らしく、是非一度聴いて頂ければと思います。以前にMccarty 594については特集記事を書いているのでどうぞ。
【機材紹介】ジョン・メイヤー – PRS Mccarty 594 (Silver)- John Mayer Database
そしてプレイスタイル面では、ジョン名義ライブでのペンタトニック主体のプレイとは違い、よりコード進行・コードトーンを意識したプレイが見られます。ハムバッカーのリッチな音色と相まって、カラフルな演奏に感じられるかと思います。
バンドの特性上、ジャム的な要素が非常に多く、結果ジョンのギターソロの割合もかなり多いです。20分近いメドレー曲の中で、半分以上ジョンがソロを弾いていることもあります。ギターファンとしてはたまりませんね。
楽曲数が豊富
Grateful Deadの長いキャリアの中でリリースしてきた楽曲を演奏するため、ライブで演奏するレパートリーは非常に豊富です。
ジョン・メイヤー本人もセットリストはライブ毎に大幅に変えるアーティストですが、Dead and Companyはその比ではありません。100曲以上の楽曲の中から毎公演ごとに曲を選択しており、連続する3公演のセットリストを見ると同じ曲は1つもないのでは?というほどです。
これはつまり、様々なバリエーションの楽曲でジョンのボーカル/ギターを堪能できるということです。
ツアーが頻繁
2015年以来、このバンドは毎年ツアーを行い複数公演をこなしています。そのためジョンが自身名義のツアーをやっていない時期でも、Dead & Companyでジョンの演奏を聴くことができます。
ジョンのツアーが無い時期に寂しさを感じている方でも、このバンドならば毎年ジョンが見れますよ。
おすすめ楽曲 -10選
ここまでDead & Company自体の紹介をしてきましたが、ここからは楽曲の紹介とします。
「ジョンの演奏を楽しめる楽曲」というのがポイントであり、ジョンのボーカルやギターソロがたっぷりあるような曲を中心に選んでいます。
Brown Eyed Women
こちらは1971年からGrateful Deadが演奏している楽曲(スタジオ盤収録は無し)です。Dead and Companyではジョンがボーカルをとっています。ボーカルメロディが全く古臭くなく、キャッチーで聴きやすい曲です。
基本のコード進行はVIm (C#m) → I (E) → V (B) → IV (A) です。
動画ではギターソロが冴えわたっており、特にキーボードソロの後の2回目のギターソロ(4:16~)は必聴です。メジャースケール、コードトーン、クロマチックな動きを多用してプレイです。
別の公演ですがSpotify、Apple Musicもどうぞ。
Sugaree
オリジナルは1971年リリースの楽曲。ジョンのボーカル曲です。
基本のコード進行はI (B) → IV (E)の繰り返しです。Keyは違えど、Gravityと同じ進行ですね。
シンプルなコード進行の上に乗る歌メロがドラマチックです。特にBメロで上記の基本進行から外れた後、サビで再び基本の進行に戻る流れは美しいです。
ギターも当然素晴らしく、2コードの上でも退屈させることなくソロを弾き続けられるスキルには脱帽です。4:35~のソロではコードトーンを意識したメロディアスなプレイですが、一方で7:41~のソロではペンタ主体でスライドを効果的に使いながらブルージーなプレイを聴かせてくれます。
別の公演ですがSpotify、Apple Musicもどうぞ。
Althea
ジョンが初めて聴いたDeadの曲がこのAltheaで、オリジナルは1980年リリースです。こちらもジョンのボーカル曲です。
基本のコード進行はBm → A → E ( → A)です。
ジョンの歌メロが非常に綺麗ですし、動画4:29からのギターソロで少しずつ盛り上げていくところも流石の演奏です。この曲のソロは毎回盛り上がるので、色々なライブを聴き比べても面白いと思います。
Spotify、Apple Musicもあるのでどうぞ。
Deal
オリジナルは1972年のジェリー・ガルシアのソロアルバム。ジョンのボーカル曲になっています。ジョンもカバーしているブルースの名曲Ain’t Nobody’s Business風のコード進行が魅力です。
コード進行はブルース風ですが、ジョンのギターソロはブルース感がそこまで強くありません(1:26~など)。コード進行を意識したスマートのソロになっており、2小節目のI (A) → III7 (C#7)の部分でKeyであるAからクロマチックにAb(=C#7にとっての5th)に降りる音使いだけでも勉強になります。
5:54以降の進行はI (A) → bVII(G) → IV(D)ですが、逆にこちらではジョン節全開のブルースソロを楽しめますし、14:10頃からはキーボードのジェフとのソロの掛け合いも見られます。
別の公演ですがSpotify、Apple Musicもどうぞ。
Terrapin Station
オリジナルは1977年リリース。終盤以外はジョンがボーカルをとります。
ジョンの歌うメロディが美しいバラードですが、もう一つの聴きどころはギターソロです。動画4:17でのソロはメロディもギタートーンもとにかく美しいです。該当部ではStrymon – Flint(リバーブ)とKlon – Centaurをオンにする瞬間も映っていますね。
別の公演ですがSpotify、Apple Musicもどうぞ。
It Hurts Me Too
エルモア・ジェイムズやエリック・クラプトンも演奏しているブルーススタンダード。この曲ではコテコテのブルースサウンドを堪能できます。
自身のライブでもブルースを演奏することはありますが、ストラト・ES- 335等がメインであり、Mccarty 594のようなレスポールライクなサウンドでの演奏はなかなかありません。
ブルースブレイカーズ時代のクラプトンのような、レスポール風サウンドでのブルースを楽しめるのはDead & Companyならではです。ブルースファンの方は全編必聴です。
別の公演ですがSpotify、Apple Musicもどうぞ。
China Cat Sunflower > I Know You Rider
Grateful Dead時代からメドレー曲として連続で演奏されていた2曲です。
メドレー前半のChina Cat Sunflowerはボブがボーカル、後半のI Know You Riderではジョン/ボブのツインボーカルです。
コード進行は下記の通り。
- China Cat Sunflower:
基本的にGのワンコード。ソロではG → D → Eと展開あり。 - I Know You Rider:
I (D) → bVII(C) → IV(G) → I (D)。キメ部はF → C → F → C
それぞれDミクソリディアンモード・Dドリアンモードだと思われます。
参考まで、コード進行の解説はこちら。
メドレー前半のChina Cat Sunflowerは基本的にワンコードですが、ソロ中にコードが数回変わります。キメのコードチェンジ部分でのコードトーンの使い方、ワンコードでも飽きさせないフレージングなどは非常に参考になります。
メドレー後半のI Know You Riderでもコードトーンはやはり重要ですが、よりブルース弾き倒し感が強くなります。バリバリのブルースロックソロを堪能したい方は是非どうぞ。
この公演は筆者も大好きですが、動画5:29 ~ 11:07のギターソロは本当に素晴らしいです。是非じっくり聴いてみて下さい。
Spotify、Apple Musicもどうぞ。
Cold Rain And Snow
Grateful Deadの1967年のファーストアルバムに収録されていた楽曲。ボーカルはジョンです。
基本のコード進行はシンプルでbVII(D) → I(E)の繰り返し。
単純な進行の上で、ペンタ全開のブルージーなギターソロが楽しめる楽曲なので、ジョンのブルージーな側面が好きな方にお勧めです。
動画1:42からのギターソロでは音数を増やし過ぎず、ブルージーながらスマートにペンタトニックを弾きこなしています。この日の演奏は曲中でPUポジションを切り替えているので、複数パターンのトーンが楽しめます。(最初はフロントPU、2:56からリアPUのソロ、3:13から再びフロントPUにチェンジ)
Spotify、Apple Musicもどうぞ。
St. Stephen
オリジナルは1969年リリース。ジョン/ボブのツインボーカルです。
基本のコード進行はI(E) → bVII(D) → IV(A) → I(E)で、ギターソロはEのワンコードだったりします。
この曲はイントロの単音メロディ~歌が始まるまでのギターフレーズがとても心地よく、コピーするのが楽しい部分です。また5:30~のソロも、ワンコードで何分間もかけて少しずつ盛り上げていくのは見事です。動画7:53~の開放弦を交えたフレーズも格好良いですね。
ギターソロを長時間弾いた後、イントロのテーマメロディに戻る瞬間のカタルシスは何度聴いても心地よいです。
別の公演ですがSpotify、Apple Musicもどうぞ。
Help On The Way > Slipknot! > Franklin’s Tower
オリジナルは1975年リリースで、人気のあるメドレー曲です。Help On The Wayのボーカルは時期によって異なり、Franklin’s Towerはジョンボーカルです。
前半のHelp On The Way > Slipknot!はデッドの曲の中でもかなりプログレ色の強い曲であり、5:43のギターソロを聴いてもわかるように、ある意味ジョンらしくないトリッキーなフレージングを楽しめます。ライブによってはQ-TRONやBOSS – OC-3などを使い破壊的サウンドを聴かせてくれる時もあります。
11:50~ のFranklin’s Towerでは一気に曲調が明るくなります。コード進行はI(A) → bVII(G) → IV(D)です。
動画17:25 ~ 19:49のメジャースケールを交えたソロはジョンの近年の演奏の中でも、屈指の名演だと思っています。いきなりフルで聴くのは辛いという方は、このソロだけでも聴いて頂けると嬉しいです。
余談ですがSlipknot!のエンディングである10:40以降の複雑なフレーズは、ジョンはDead & Company 加入前にかなり苦労したと語っていました(ジョンは運指にあまり小指を使わっていなかったため)。
別の公演ですがSpotify、Apple Musicもどうぞ。
最後に
今回の記事ではDead and Companyにあまり触れたことのないJMファンの方向けに、歴史と楽曲紹介をさせていただきました。
筆者の趣味もあり選曲はブルースギター色が強いですが、現時点ではベストなリストができたと思います。このバンドのレパートリーは、他にも100曲以上あるので今後も紹介できればと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
Twitterでもジョンの素晴らしい演奏をシェアしていきますので、よければこちらもどうぞ。
Dead & CompanyのMorning Dewより、ジョン・メイヤのソロです。
— ジョンメイヤー・データベース (@johnmayer_db) May 16, 2021
テンションが相当高かったのか、プレイはキレキレで凄まじい迫力です。動画前半の顔で弾く姿はキャリア初期を思い出しますね。
フレーズからはクラプトンの影響も感じ取れますし、Mccarty 594とデラリバ×3のトーンも素晴らしいです。 pic.twitter.com/SHNhaIZnnj