目次
はじめに
John Mayerに音楽的影響を与えたミュージシャン達のことを学ぶことで、Johnの音楽的スタイルをより深く理解したい、という意図から様々なミュージシャンとJohnの関係性を紹介していこうと思います。
今回は第一回目です。
結構長い記事なので、目次で気になるところから読んでいただいても勿論構いません!
スティーヴィー・レイ・ヴォーンとは
一人目はこの人をおいてはいないでしょう、スティーヴィー・レイ・ヴォーン(以下、SRV)です。
伝説的ブルースギタリストとして今でも絶大な人気を誇るSRV、日本でも熱狂的ファンの方が相当多いです。
SRVが音楽シーンに本格的に進出してきたのは1982年、David BowieのアルバムLet’s Danceでのギタリストに抜擢されたところが始まりでした。
Eric ClaptonがラジオでこのLet’s Danceを聴いたときに、アウトロ(3:27~)のSRVのギターソロに物凄い衝撃を受けたとか。
1982年当時の先鋭的なポップミュージックにゴリゴリのブルースギターを入れ込んでいますが、このあたりの感覚はJohn Mayerも継承している気がします。John Mayerも今までの数々の客演においては、ポップソングだろうがヒップホップだろうがフュージョンだろうが基本ブルースフレーズを弾いています。
その後SRVはアルバムを複数枚リリースしました。Albert KingやJimi Hendrix、Buddy Guyらのプレイを吸収しつつも、更にハードに演奏するスタイルが世界中のギターファンを虜にしました。(JohnはSRVのみならず、この辺りの「SRVが憧れたギタリスト」のプレイもかなり研究し、自分のスタイルにしていますね)
SRVはB.B. Kingをはじめとするブルースレジェンド達にも大変慕われ何度も共演を果たし、ブルースギター界の風雲児となり大活躍を納めます。まだまだこれからの活躍が期待されていましたが、1990年に不運にもヘリコプター事故のためこの世を去ります。
ジョンとSRVの出会い
Johnは13歳の頃、映画Back to the FutureのJohnny B. Goodeの演奏シーンに憧れてギターを始めましたが、その後隣人からSRVのカセットテープを貸してもらったことがきっかけでブルースに熱中していきます。それ以来30年にわたり、SRVはJohnにとって究極のギターヒーローであり続けます。
Johnの高校での卒業アルバムにもSRVの名前は出てきています。「俺の世界は教室には無かった。カセットとCDの中のヒーローに感謝する。」とのことで、なかなか骨のある青年だったようです(No Such Thingの歌詞もこんな感じですね)。ちなみにここにはJohn MayerにとってもSRVにとっても共通のギターヒーローである、Albert Kingの名前も出てきていますね。
余談ですが、カセットを貸したのとは別の隣人の話として、「Johnはギターを始めて1週間でペンタトニックスケールをマスターしていた」という逸話があります。
SRVがジョン・メイヤーに与えた影響
では、いよいよ本特集の本編になります。
SRVの影響が垣間見えるいくつかのライブ映像を例に挙げ、Johnのプレイスタイルや使用機材から読み取れるSRVの影響についてお伝えできればと思います。
Texas Flood (2015.4.18)
2015年にStevie Ray Vaughan & Double Troubleが栄誉ある「ロックの殿堂」入りを果たしたときのセレモニーです。JohnはなんとSRVを称えるスピーチ(こちらも感動的です)を行い、そしてその後SRVの曲を3曲演奏しました。
13歳の頃から25年間、究極のギターヒーローとして憧れていたSRVを一番近い場所/立場で称えることができたわけです。Johnの人生最高の瞬間の一つだったのではないでしょうか。
そんなJMファンとしては涙無くしては見られないセレモニーですが、機材面とプレイ面もかなりSRV愛がこもっています!
使用機材
使用した機材をいくつかピックアップします。
Fender – Stevie Ray Vaughan Stratocaster
使用していたストラトはJohnが1996年頃に購入したSRVシグネイチャーです。今でもこのギターはJohnのベッドルーム用ギターとして使われていて、たまにステージやInstagramでも使用されています。バークリー音大入学前後に入手したということもあり、Johnにとってはキャリア駆け出しの重要な時期をともに過ごした戦友であるため、特別な思い入れがあるのだと思われます。
ピックガードがべっ甲に交換され、ヘッド裏にはJohnの昔の写真が貼られています。これはどちらもバークリー時代の恩師トモ藤田氏のSRVストラトを意識して施されたカスタムと想定されます。
ピックアップについては、John自身でリワインドしたのか個体差なのかは不明ですが、通常のSRVストラトのTexas Specialピックアップとはキャラクターが異なるようです(クリス・フレミング談)。このMid-Scooped(≒ドンシャリ)な特徴を参考にして、後のFender – John MayerシグネイチャーストラトのBig Dipperピックアップが誕生します。
ちなみにJohnはFender Custom Shopから世界100本限定で販売された、SRV No.1 Stratocasterも所有しています。なのにJohnは敢えて安いほう(価格差10倍!)のSRVシグネイチャーストラトを使ったわけです。
数十年共に過ごした戦友の方を選んだのですね。確かにこれ以上適役はいないというギターで、本当に粋なセレクトですね。
Dumble – Dumbleland Special 150W #005
このセレモニーで使った中で最も特筆すべき機材はこのDumbleland Specialアンプです。シリアルナンバーは#005!この個体はかつてJackson Browneが所有していたもので、なんとSRVの1stアルバム”Texas Flood”で実際に使われたアンプです!Fender Vibroverbと共に鳴らして録音していたとか。
その伝説ともいうべきアンプをこのセレモニーでJohnは使用していたのです!自身がティーンの時から愛用する、SRVシグネイチャーストラトと共に。
そして隣に並んでいたのは長年JMの相棒であるTwo RockのJMシグネイチャー。SRVの使用したアンプと自身のシグネイチャーアンプを並べて鳴らしているのもまた粋ですね。
ちなみにこのDumbleをJohnは2014年に日本で購入しています!大阪の島村楽器で600万円で販売していたようです。
〈SHOP〉梅田ロフト店
— 島村楽器商品担当 (@shima_md) May 12, 2013
なんと、ダンブルアンプがあります!
あのスティービー・レイボーン氏も使用した名機です! pic.twitter.com/Xa2ynvGfkU
JMが入手した後の日本公演でこのアンプは使用されました。当然ですが音も素晴らしかった記憶があります。
その後はほとんどライブでは使用されておらず、John Mayerの使用頻度的にもかなりレアなアンプになります。このアンプはその後Johnの手元を離れてコレクターが所有しているという説もありますが、真相はわかりません。できればずっとJohnに持っていてほしいような・・・。
エフェクター
当日使用していたエフェクターは下記の通りです。
- Boss – TU-2:チューナー
- Keeley – Katana Boost:クリーンブースター
- Ibanez – TS-10:オーバードライブ
- Klon – Centaur:オーバードライブ
- Way Huge – Aqua-Puss:ショート(?)ディレイ
- Way Huge – Supa-Puss:ロング(?)ディレイ
歪みの接続順番としては前段がTS10、後段がCentaurになっています。
他の機材のセレクトを考えると、このTS10ももしかするとSRVが使用していた個体かもしれません。John Mayerは長年ギターテックを務めるRene(過去にはSRVやSantanaのサポートもしていた伝説のギターテック)からSRVのTS10を借りている時期がありました。
Johnはデビュー当初からチューブスクリーマーを使用していました。TS10, TS808が特に使用期間としては長いですが、SRVも同じくTS808やTS10を使っていました。Johnのオーバードライブサウンドの根幹をなす部分は、SRVと同じ機材をずっと使い続けているということになります。
複数の映像を確認した結果、エフェクターの使用タイミングは下記のようになっていそうです。
- Katana, Aqua-Puss, Supa-Puss:常時オン
- TS10:2:01の歌いだしの部分でオン、ソロの前半もそのまま使用
- Centaur:3:35のソロ後半に入るところでオン
クリーンブースターやディレイを常時オンにするのはよくあるJohnのセッティングです。
Centaurを重ねていない、TS10単独でのサウンドをこれだけじっくり聴けるのは意外とレアですね。かなりジューシーなブルースサウンドです。
ソロ2回し目でCentaurもオンにします。このソロの盛り上げ方は流石としか言いようがありません。やはり素晴らしいオーバードライブサウンドです。
プレイスタイル
この映像でのプレイから特徴的な部分をいくつかピックアップします。
- 2:48~3:01の部分はいきなり超ブルージー。音と音の間隔・タメが絶妙で、ソロの最初から引き込まれます。このプレイ、真似しようとするとかなり難しい・・・。
- 3:03~3:06のマイナーペンタの動きはSRVの手癖かつJohnの鉄板フレーズでもあります。3:06あたりでマイナーペンタの中に鮮やかにメジャーペンタの音(6thの音=IVのM3rd)を挟むところもJohnの得意技です。
- 3:20~3:27あたりはB.B.KingでおなじみのBBボックスでのプレイです。JohnはBBボックスを多用しますが、そこにはB.B. KingはもちろんSRVの影響もありそうです。この曲でのソロ(1:53~)のSRVのBBボックスの使い方はそのままJohnに継承されていますね。
- 3:35からはTS10とCentaurを両方オンにしソロの2回し目です。ハイポジションでのマイナーペンタ・SRVの手癖を引用したフレーズです。ここからCentaurもオンにしているので歪み量も増えていますね。この盛り上げ方は、このソロでも最大の聴きどころです。3:50で1オクターブ一気に下がるところもSRVの影響です。
- この曲はKey=Gですが、4:07~のVのコード(=D)の部分ではあえてDマイナーペンタを弾いています。次のIVのコードでは同じくCマイナーペンタを意識していますね。ブルース進行のIVやVで、そのコードのペンタを弾くのはJimi HendrixやSRV、John Mayerがよくやる弾き方ですね。4:19の2音ベンドはSRVも尊敬するAlbert King風でもあります。
2013年のAlbert Kingの「ロックの殿堂」セレモニーでもJohnはAlbertリスペクトフレーズを連発していましたが、このSRVのセレモニーも同様にJohnのSRV愛が溢れています。
ちなみにギタープレイだけでなく、歌い方もSRVを意識していますね。
Everyday I Have the Blues (2007.12.8)
2つ目のライブ映像はこちら。
世界中のJMファンから愛されるライブ盤Where the Light isに収録されているEveryday I Have the Bluesです。B.B. Kingの演奏で有名な曲なので、この攻めたアレンジには驚かれた方もいたかもしれません。
この演奏についてはプレイスタイルのみ、ご紹介します。
プレイスタイル
実はこのアレンジは完全なるSRVオマージュです。SRVの3rdアルバムSoul to Soulに収録されたSay What!がオマージュ元の曲になります。シャッフルのビートが一緒ですね。
JM Trioの動画の2:03のトリルからのマイナーペンタもSRVの動画の最初の部分と同一ですね。JM Trioのソロ後半でワウを使っているのもSRVのこの曲を意識してのものと考えて間違いないでしょう。グリスダウン~アップの仕草にもSRVの影響が感じ取れますね。
あとはSRVの動画の0:13のところ。IVの時にそのコードのM3rdの音をフレーズの終わりに一瞬入れる小技はJohnにもしっかり継承されています。
Cold Shot (2008.8.1)
最後の映像はこちらです。
SRVの2ndアルバムに収録された曲のカバーです。この映像はテキサス州ダラスでの公演で、SRVの地元ということもあり特別にこの曲を演奏していたようです。この演奏についても使用機材とプレイスタイルの2面でご紹介します。
プレイスタイル
このソロで出てくるフレーズ全てにSRVの影響があるといっても過言ではありません。というか、SRVの原曲フレーズをそのまま引用している部分もかなりあります。
- 0:25および1:10の部分はSRVの手癖リックですが、曲のリズムから微妙にずらして弾いているところに玄人感が滲みでています。このようにリズムを変えたり無理やり手癖をねじ込むのはJMに常套句ですね
- 0:52~1:04くらいのマイナーペンタのフレーズもSRV直系ですが、特に後半のフレーズは意外とグルーヴに乗せるのが難しく、ここを曲に合わせて弾けると相当格好良いですね。
- 1:28のレイク(スウィープ)のフレーズもSRVがTin Pan Alleyの2:15あたりで弾いていたフレーズをそのまま引用しています。このフレーズも頻繁には出てこないものの、Johnのキャリア20年間でずっと弾き続けているフレーズですね。
使用機材
Fender Custom Shop – SRV No.1 Stratocaster
先ほども少し触れたストラトです。このストラトはFenderCSのマスタービルダーだったJohn Cruzが制作したもので、その後Johnが有名なBlack Oneの制作をJohn Cruzに依頼したのはこのギターへの憧れがあったからかもしれません。
余談ですがJohnは相当数No.1ストラトを持っているという話もあり、世界中に存在するうちの1~2割はJohnの自宅にあるのでは?とも言われています。
Korg -G4
この曲のギターの揺れ感ですが、この時期ラックに入っていたロータリースピーカーシミュレーターであるKorg – G4を使用していると思われます。
Johnはステージにレスリースピーカー実機も置いていますが、一聴して分かる揺れ感のあるサウンドはKorg – G4などのシミュレーターを使っていると思われます。
使用例としてはエレキ版NeonやCity Love, Perfectly Lonely, Shadow Days, Love is a Verbなどです。長年のキャリアを通して、ロータリシミュレーターは意外と使用し続けられています。他に揺れものエフェクトとして、近年はBoss CE-2などのコーラスペダルも使っていますね。
BOSS CE-2を使用しての演奏はこちら
【機材紹介】ジョン・メイヤー ~ 2021年グラミー賞授賞式編 – John Mayer Database
最後に
今回は象徴的なパフォーマンスをいくつか挙げましたが、正直John MayerへのSRVの音楽的影響はあまりにも大きすぎて、1つの記事で伝えきることはできません。
John Mayerは偉大なレジェンドギタリスト達のプレイや音作りをかなり勉強した上で、今のスタイルを作り上げています。偉大なミュージシャン(=Johnにとっての教科書)を学ぶことは、John自身のスタイルを紐解くうえでもとても重要な手掛かりになります。
今後は「このJohnのフレーズはSRVのこの手癖から来ていて・・・」みたいな、より細かな部分にフォーカスした特集も企画していければと思っています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。Johnがブルース曲で愛用するPRS – Mccarty 594についても解説しています。よかったらどうぞ。
【機材紹介】ジョン・メイヤー – PRS Mccarty 594 (Silver)- John Mayer Database
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