前回のオーバードライブ編から始まった、John Mayerのエフェクター特集。第二回となる今回は「ディレイ」特集になります。ジョンの20年のキャリアにおいて、ディレイペダルがボード/ラックから抜けたことはほぼ無く、ジョンのサウンドには必要不可欠な存在とも言えます。

関連する内容もありますので、前回記事をまだ読まれていない方は是非そちらも読んでいただければと思います。

はじめに – ジョン・メイヤーとディレイ

ジョンのミニボード画像。Aqua Puss mark1~3を始めCarbon Copy, Chrono Delay, T.E.S.などが並んでいます。

ジョンは長年ディレイペダルを愛用しており、どんなに小さなボードを使う時にもディレイペダルが抜けることはほぼありません。チューブスクリーマーと同じくらい、JMサウンドには重要なものであるとも言えるかもしれません。

2007年のリハーサル映像より。Aqua Puss, Keeley modのAD-9, T.E.S., DD-3, AD-900等多数のディレイが足元に並んでいます。更にこの奥にはT-RexのReplicaも置いてありました。

ジョンがツアー等でフルサイズの機材を使う際には、ディレイを2種類以上使うことが多いですが、これらは主にディレイタイムやタップテンポ有無等によって使い分けているようです。

かなり乱暴ではありますが、ジョンのディレイの使用用途はスラップバックディレイ(Aqua Puss)それ以外という2パターンに分類できます。今回の記事でもその2パターンに分けてご紹介していきます。また各ディレイペダルのサウンドの差ではなく、ジョンがいつ・どのようにディレイを使っているかによりフォーカスしていきます。

ジョンはディレイを薄めにかけることが多いため、ディレイのオン/オフがわかり辛いことがあります。そのためこの記事ではヘッドホンもしくはモニタースピーカーでのご視聴を強くお勧めします。

各エフェクター紹介(ディレイ)

Way Huge – Aqua Puss

ジョンが2005年頃から使用しているアナログディレイペダル。オリジナルは1990年代に伝説のペダルビルダーJeorge Trippsが作っていた希少なペダルになります。ジョンはディレイタイムを短め、フィードバックを1回程度にした、いわゆるスラップバックディレイとしてAqua Pussを多用しており、その使い方は長年変わっていません。

ディレイにより音に厚みを出すことを狙っているのではないかと予想されますが、ジョン本人の明確なコメントはあまり存在しません。

ジョンはデジタルディレイも多数使用していますが、過去には「アナログディレイは自身の必須のペダルである」旨を語っており、「ディレイタイムを短くすればロカビリーサウンドを、長くすればピンクフロイドのサウンドを得られる」と綴っていました。

また2013年には自身のペダルボードについて「大まかに言えばTS10とKlonとAqua Pussがすべてである」という旨の発言をしており、重要なペダルであることが伺い知れます。

90年代のオリジナルである、ジョン本人の所有機。復刻版であるmark 2, 3と比べるとBLENDとDELAYの位置が逆になり、更にBLENDとFEEDBACKはノブを回す向きも逆なので、設定を真似するときには注意が必要です。
更に90年代オリジナルにも複数バージョンがあり、mark2以降の復刻版と同じノブ配置のものも存在します。ジョンは2010年頃まではこちらのバージョンを使用していました。

近年はジョン・メイヤー名義 or Dead & Company名義を問わず、復刻版であるAqua Puss mark2, 3を使用していることも多く、オリジナルにはあまりこだわっていないようです。

使用頻度は高いと思われますが、ギターサウンドへの微妙な味付けという用途のようで、バンドアンサンブルの中では効果がわかりにくいことが多いです。

また年代による差異は勿論、ライブ途中にもディレイタイムを変更していることもよくあるため、一概に「これがAqua Pussの音」というのは定義しづらい面があります。

それでは使用タイミングディレイタイム等の設定が推測できるような映像をいくつかご紹介します。わかりやすさ重視でのセレクトになりますが、これ以外にも多くの曲でAqua Pussは使用していると予想されます。

2005年のライブ盤TRY!よりOut of My Mind。常時オンのようで音の後ろに僅かにディレイ音がついてきています。特に4:16~ のソロでは音量もあがり、より聴き取りやすいです。この曲は余白が多いため、この演奏以外でもディレイ音をしっかり聴き取れることが多いです。
2005年のBuddy Guyとの共演。6:53付近のフレーズではAqua Pussのディレイ音をはっきりと聴き取ることができます。なおこの時の歪みはTS808です。
2013年のSomething Like Olivia。0:07~ のイントロ、ギターだけで演奏する部分については僅かにディレイらしき残響音が聴こえるため、Aqua Pussを使用していると推測されます。シンプルなコードバッキングも、ディレイを使うことでより煌びやかなサウンドに仕上げています。
2014年のSlow Dancing in a Burning Room。0:19~0:27辺りでAqua Pussによるスラップバックディレイが聴き取れ、常時オンで演奏していると思われます。また、2007年末のWhere the Light Is (Live in LA)の同曲のイントロでもやはりディレイ音を聴きとることができます。
2014年のAll Along the Watchtower。曲の前(47:35頃)にディレイの確認をしていますが、はっきりとディレイ音が聴き取れます。
2005年のトリオのライブ。13:44でのディレイ音は前の曲であるWho Did You Think I Wasのディレイです。その後13:52でディレイタイムを短くしてからWait Until Tomorrowを演奏しています。Wait Until~のような細かなリズムを刻む曲ではディレイ音が邪魔にならないようタイムを短くしたのではないかと推測されます。
2007年のWaiting on the World to Change。曲の直前、17:01にジョンのディレイの設定を予想することができます。
2010年のTV出演前のサウンドチェック。Waiting on the World to Changeのチェック中ですが、1:53でのフレーズはやはりディレイ感を感じ取ることができます。
2013年のGlobal Citizen Festivalより。Waiting on the World to Changeの演奏直前27:13のブラッシングからディレイの設定を推測できます。
2015年のSRVカバー。0:08からディレイの確認をしています。他写真から判断するにジョンから見て左がAqua Puss/右がSupa Pussで、ジョンは曲前でAqua Pussのディレイタイム/ミックスを調整しているように見えます。この設定で演奏した際のオフィシャル映像はこちらです。
2013年のVultures。0:16のジャムからディレイが派手目にかかっていますが、ここまでディレイ音が大きいのはジョンにしては珍しいです。Aqua Pussに加えてラックに入っているBinson – Echorecがオンになっているのかもしれません。足元は触っていなそうなので、この設定のままVulturesのイントロも演奏しているようです。

Other Delay Pedals

左上:Timefactor、右上:Carbon Copy、
左下:T.E.S.、右下:Chrono Delay

ジョンは客演などのミニボードでない限り、基本的にディレイを2種類以上準備しています。ショートディレイとしてはAqua Pussを長年使用していますが、それよりディレイタイムが長い別のペダルについてはこれまでも相当な種類を使用してきており、その中の一部ですがここでご紹介します。

  • T-REX – Replica
    2005年のトリオ時代に使用。タップテンポ機能あり。
  • Pete Cornish – T.E.S.
    ハンドメイドディレイ。2006年以降現在に至るまで使用中。ジョンはBOSS – DD-2のコントロールノブが付いたバージョンと、そうでないものの2種類を使用。
  • Fulltone – Tube Tape Echo
    テープエコー。正確にはディレイとは異なりますが、ジョンはロングディレイ的用途で2008年頃に使用していました。また2013~2014年頃には、Paper Dollで使用するために再登場していました。筐体が大きくラック内に収められています。
  • Eventide – Timefactor
    2010年頃に使用。デジタルディレイの名機。
  • MXR – Carbon Copy
    2009年頃より使用。JM名義のライブというよりも、イベントなどでの小型ボードでの演奏・Dead and Company等でよく使用しています。開発に携わったのはAqua Pussと同じJeorge Tripps氏。余談ですが、彼はWay HugeでAqua Puss等を開発後、Line6 でDL4開発に携わり、更にその後MXRでCarbon Copyを開発したという、ディレイの神様的な存在です。
  • Strymon – Volante
    Dead and Companyの2019年ツアーで使用。ヴィンテージエコーであるBinson Echorecをイメージした製品。似ている機材としてDawner Prince – Boonarや、同じStrymonでもTimeLineやBrigadierなども使用していました。
  • Providence – Delay 83
    2018年頃から使用、後に黒色に塗りつぶされています。2019年ツアーでは多用しているようでした。
  • Providence – Chrono Delay
    JM名義・Dead and Companyの両方で2019年ツアーから使用。2019年頃は主にタップテンポ用として使っていました。2021年現在もボードに存在するので、現時点では一番気に入っているディレイと言えるかもしれません。

Aqua Puss同様、年代や機種、曲によってディレイタイムが異なるため、一概には定義できませんが、JMの代表的なディレイの使用例としていくつかご紹介します。

同じく2007年のBelief。動画最初でイントロのフレーズを一瞬弾いており、ディレイ音がよく聴き取れます。2010年Premier Guitarによると、この曲はディレイを2種類(TimefactorとAqua Puss)オンにしているようなので、この時もT.E.S.とAqua Pussが両方オンかもしれません。
なお2019年ツアーのこの曲については、ソロ以外ではディレイをオフにしていることが多そうです。
2014.6.9のBelief。0:34~のギターソロではT.E.S.をオンにしており、かなりはっきりとディレイ音を聞き取ることができます。このディレイ音からこのツアーにおけるJohnのディレイタイムを推測することができます。
2019.6.10のBelief。イントロのギターソロは2014年頃と比べるとディレイタイムが短くなっており、0:38辺りのフレーズではディレイをはっきり聴き取ることができます。
2007年のVultures。イントロジャムの時点からT.E.S.と思われるディレイ音がしっかり聴き取れます。2010年Premiur Guitarの映像ではディレイが2種類オンとなっていることから、この時にも T.E.S.とAqua Pussの両方がオンになっている可能性もあります。Vulturesは曲中通してディレイをしっかりかけているのが特徴です。
2007年のBold as Love。2:02~のソロでT.E.S.をオンにしているようで、2:48でブレイクダウンした後ではそのディレイ音もしっかりと聴きとることができます・
2009年のトリオでのCalifornia Dreamin’の演奏。1:33でCarbon CopyとTS10をオンにしていると思われます。ソロ中はタイム長めのディレイ音をしっかり聴き取ることができます。また足元にはAqua Pussもあり、そちらもオンになっているのかもしれません。
2010年のAin’t No Sunshine。Carbon Copyによるディレイが常に効いています。トリオでアンサンブルがシンプルなので特にディレイが聴きやすく、イントロやソロ(1:26~)等はわかりやすいです。
2013年のSlow Dancing in a Burning Room。1:07など、BメロでT.E.S.を踏んで音に厚みを持たせています(映像でも黄色ランプの点灯が確認できます)。T.E.S.をオンのままギターソロも弾いており、2:55辺りはディレイがわかりやすいです。この曲やBeliefなどここぞというギターソロでは、ロングディレイをオンにすることが多いようです。2019年ツアーでは一番のBメロ以降ずっとディレイオンで演奏していることもありました。
2019年のFranklin’s Tower。他アングルの映像から予想するに29:56でStrymon – Volanteをオンにしているようで、リバーブとテープエコーが溶け合う素晴らしいサウンドを楽しめます。特に30:54からの高音フレーズは絶品です。
2017年のMoving On and Getting Over。1:45のCメロでT.E.Sを踏んで、幻想的な効果を生んでいます。
2017年のStill Feel Like Your Man。こちらも5:40のCメロでT.E.S.を踏んでいます。5:55~のクリーントーンでのリードフレーズでは効果もわかりやすいです。
2019年のIn Repair。4:33からのソロではT-Rex – Replay Boxをタップテンポで使っていると思われますが、ディレイ音をはっきりと聴き取ることができます。
2021年のLast Train Home。Chrono Delayを使用しているようですが、曲の最後3:19ではディレイ設定を予想することができます。同時期の別の映像ではここまではっきりとはディレイ音は聴こえず、日毎にディレイタイム/フィードバック/ミックス等を調整していると思われます。
2019年ツアーのリハーサル映像。0:21では前の曲(おそらくSlow Dancing)のディレイが残っており、ディレイセッティングが予測できます。恐らくProvidence – Delay 83を使っており、ディレイタイムは短めでフィードバックは複数回です。
2007年末のBelief。イントロギターソロではかなりはっきりとしたディレイ音が聴こえています。ディレイタイムは980~990msec程度でかなり長いです。なおこのディレイはライブ当日の録音では一切聴こえず、後の編集で付加されたものであると思われます。

おわりに

ジョン・メイヤーのディレイを2種類に分けてご紹介しました。使用している楽曲や場面、セッティングなど少しでも参考になりましたら幸いです。

例外も多数ありますが、大まかに使い方を分類すると下記の通りかと思います。

  • ショート/スラップバックディレイ
    使用する楽曲では基本的に常時オン
  • ロングディレイ
    曲の要所(ソロやB/Cメロ)でオン

途中でも述べましたが、ジョンのディレイ音はバンドアンサンブルに紛れるためはっきりと聴き取れることが少なく、歪みペダル等と比べると意識されている方は少ないかもしれません。

今回はディレイが聴き取りやすい演奏をご紹介しましたので、是非これらを参考にセッティングをお試しいただければと思います。少しでもジョンのサウンドに近づくことができれば、この記事を書いた身としては嬉しい限りです。

次の第3回記事ではジョンのモジュレーション特集を予定しています。ジョン・メイヤーのサウンドという面では語られることの少ないジャンルですが、実は重要な役割を担っているエフェクトでもあります。こちらもお楽しみに!

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