ジョン・メイヤーのエフェクター特集、第3回はモジュレーション/リバーブ編になります。一部関連する内容もありますので、以前の記事も併せてどうぞ。

はじめに – ジョン・メイヤーとモジュレーション

ジョン・メイヤーの音作りをエフェクターで再現する場合、最も基本となるのは歪みやディレイであり、所謂揺れモノを意識されている方は少ないかもしれません。しかしながら特にContinuum期(2006 ~ 2008年頃)やSob Rock期(2021年以降)についてはモジュレーションもサウンドの重要な要素となっています。これらの時期のJMサウンドが好きな方であれば特に楽しんでいただけるかと思います。

またリバーブについてはトレモロとセットになっているエフェクターが多いため、厳密にはモジュレーションとは異なりますが今回の特集の中でご紹介していきます。

ジョンはこの辺りのエフェクトを派手に使うことは少なく、トーンの味付け程度であることが多いです。複数の動画をご紹介していきますが、微妙なトーンの違いを楽しんでいただくために、是非ヘッドフォンやモニタースピーカーなどでご視聴いただければと思います。

各エフェクター紹介(モジュレーション/リバーブ)

ロータリースピーカー

Leslie 122

アンプ左側の茶色のボックスがレスリー。2006年頃はアンプと共に並んでいました。

2006年頃から、ジョンが長年使用しているレスリースピーカー。 ギターテックであるルネ・マルティネス曰く「コーラスのようなエフェクトを得るために使用している」とのことで、所謂”ペダル”ではありませんが非常に重要な存在であるため今回の特集にも組み込んでいます。なお正確なモデル名は不明ですが、その外観やCAE社のコメント等からLeslie 122である可能性が高いと考えられます。

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一般にレスリー実機を使用するのはハードルが高いと思います。筆者は代用としてNeo Instruments – micro Vent 122を使用しています。他のシミュレーターにはあまり無いMixノブがついているため、1台のアンプのみでもJMサウンドの再現には使いやすく、またそのような用途をメーカー側も想定しているようです。ジョンも同メーカーのVentilatorを過去には使用していました。

2006年頃はアンプと並べてステージに設置していましたが、出力が低く他の音をマイクが拾ってしまうため、その後ステージの奥等に隠すように置かれることが多くなりました。

2007年のライブより。この時期にはアンプの裏側に置かれています。
2007年末のWhere the Light Isでもアンプの裏にレスリーが映っています。
2010年のサウンドチェックの様子。やはりアンプ裏にレスリーを置いています。この時期以降は余計な音をマイクが拾わないように、レスリーを専用のキャビネットの中に隠しています。
過去記事でも分析している2010年の映像より。コントローラーの3段目に各アンプと合わせて、”LESLIE”をON/OFFできるようになっています。3台のアンプは基本的に常時ONですが、Leslieはプリセット毎にON/OFFが異なります。
近年のライブでは姿が見えないため存在を忘れられがちですが、2019年ツアー時点でもレスリーのON/OFFスイッチがペダルボードに存在しており、現役で使用し続けているようです。

レスリーはマイクで拾ったエフェクト音を他のアンプの音とミックスし客席およびジョンのモニターへ届けていると思われ、ギターサウンドの味付け程度に使っているのかと予想されます。

過去の演奏の中でも特にレスリーの効果が聴き取りやすいものをいくつかご紹介します。特に高音フレーズやミュート弦へのアタック、グリスダウン等が聴き取りやすいポイントになります。是非ヘッドフォン等にてお楽しみください。

2008年のI Don’t Trust Myself。この日はレスリーのミックスが大きいようで全編エフェクト音を楽しむことができます。この演奏では3:50や5:25のギターソロでも揺れ感を聴き取ることができます。キャリアを通して、この曲ではレスリーやコーラスなどのモジュレーションを使うことも多いです。
上の動画と同じ日のBelief。イントロ(20:30~)の単音フレーズに揺れ感が感じられます。22:51~のギターソロでもエフェクトが目立っており、コーラス的な高域に特徴のあるサウンドが聴き取れます。
2006年のContinuumリリース直後の演奏。3:51からのギターソロではレスリーがオンになっている可能性があります。4:09以降のグリスダウン~ミュート弦のアタックを交えたフレーズ等が特徴がわかりやすいです。
同じく2006年のContinuumリリース直後のI Don’t Trust Myself。4:21からのアウトロソロではコーラスが薄くかかったようなサウンドに聴こえますが、このときにレスリーをオンにしていたのだと思われます。特に5:19辺りは顕著です。
2006年のBold As Love。ギターの揺れ感はレスリーによるものだと予想されます。3:26の部分でアンプの左側に茶色の箱が見えますがこれがLeslieです。
2019年のI Don’t Trust Myself。2:47~ のギターソロからレスリー
をオンにしているようで、ソロ後もオンのままになっています。ソロのサウンドもレスリーによって生々しさが加わっています。
2006年のSlow Dancing in a Burning Room。3:50~ のギターソロではうっすらとLeslie的サウンドが聴き取れます。やはり高音フレーズの方が聴き取りやすく、4:29のフレーズがわかりやすいかと思います。
2007年末の有名なSlow Dancing in a Burning Room。他の映像と比べるとミックスが小さく音だけだとわかりづらいですが、この時のアウトロソロではレスリーを使っていることが明らかになっています。4:44のスウィープ風フレーズでは多少特徴が出ているかと思います。

基本的にはミックス量も多くなく味付け程度なので、上の動画のようなわかりやすい使用例は少ないですが、他にもキャリアの様々な時期でレスリーを使用してきています。以下は使用が明らかになっている一例ですが、他の楽曲でも使用していることが予想はされます。

  • 2007年12月 (Where the Light Is – Live in LA)
    • Bold As Love
    • Slow Dancing in a Burning Room
    • I Don’t Need No Doctor
  • 2009~2010年ツアー (過去記事で紹介した情報より)
    • Belief
    • Gravity
    • Vultures
  • 2019年ツアー
    • Belief
    • Gravity
    • Slow Dancing in a Burning Room
    • I Don’t Trust Myself

Rotary Speaker Simulator

2007年~2010年頃までジョンが愛用していたKorg – G4

ジョンは長年レスリー実機を使い続けていますが、一方でロータリースピーカーのシミュレーターペダルもキャリア初期から使用し続けています。ツマミ位置やサウンドから判断するに、シミュレーターは派手にロータリーサウンドを得たいときに使用している可能性の方が高いです。ここでは機種は絞らず、代表的な使用例をいくつかご紹介します。

2002年のエレキ版Neon。1:03からのBメロではロータリーエフェクトの揺れ感が確認できます。この時期はHughes & Kettner – Rotosphereを使用している可能性が高いです。
2008年のSRVカバー。原曲の雰囲気に合わせるためにKorg – G4によるロータリーエフェクトを常時オンにしています。0:12~ のギターソロでは特にエフェクトがわかりやすいです。なおこの演奏については過去のSRV特集記事でもご紹介しています。
2009年のPerfectly Lonely。この曲のギターソロではスタジオ盤/ライブ共にロータリーエフェクトをオンにしています。このライブではKorg – G4を使用していると思われます。
2012年リリースのShadow DaysのMV。2:25からのギターソロでロータリーエフェクトをオンにしています。ライブでも同様にStrymon – Lexなどのロータリーエフェクトをオンにしているようです。
2013年のLove Is a Verb。前の曲のアウトロジャムのあと、0:36でStrymon – Lexをオンにしています。

コーラス

ジョンが頻繁に使用しているCE-2。2019年途中からは他の複数ペダルと共に黒塗りにされていますが、これは「ジョンが使ったという理由だけで市場価格が上がるという現象を避けるため」と本人が語っています。

2019年ツアー頃からはレスリー実機に加えてコーラスエフェクトも積極的に使用しており、確認されているものは下記通りです。

  • Boss – CE-2
  • Free The Tone – TRI AVATAR TA-1H
  • Neunaber Audio Effects – Inspire Tri-Chorus Plus
  • Chase Bliss Audio – Warped Vinyl HiFi
  • Fulltone – That 80’s Rack Chorus

Continuumツアー時のレスリーサウンドへの回帰ともいえるので、今後のライブでのサウンドにも期待したいです。

更に2021年のアルバムSob Rockでは80sを意識したサウンドになっており、当時のサウンドを想起させるようなコーラスを頻繁に使用しているようです。最新の2022年のツアーでもCE-2やWarped Vinyl HiFiを使用しているようですが、一部ペダルについてはXoticのX-Blenderのループを使ってドライ音とエフェクト音をミックスして使っている可能性もあります。

コーラスは近年の使用が多いですが、機種は絞らずにいくつか使用例をご紹介します。

2019年のリハーサルでの映像。このHelplessのソロではCE-2をオンにしています。
同じく2019年リハーサルより、Love Is a Verb。イントロや1:50~のソロではコーラスエフェクトがかかっています。先ほどご紹介した通り、2013年頃はこの曲ではロータリーシミュレーターを使用していましたが、2019年にはコーラスで演奏するようになっています。
2021年のLast Train Home。CE-2によるコーラスエフェクトが常にかかっています。この曲のレコーディングの際にもCE-2を使ったとジョン自身が語っていました。
2021年にTik Tokにアップされた新曲Shot in the Darkのギターパートの映像ですが、ここでもコーラスエフェクトを使用しています。
2021年のMarren Morrisとのコラボです。0:25からのギターソロではCE-2によるエフェクトが効いたプレイを聴くことができます。この日の演奏/機材に関しては過去の記事でもご紹介しています。
2022年のライブよりShot in the Dark。曲中はコーラスを常時オンですが、3:48~のギターソロではよりエフェクトがわかりやすいです。2022年ツアーではCE-2, Warped Vinyl HiFiなどのコーラスペダルを使用しているようです。
2019年のIn Repair。常時コーラスがオンで、恐らくWarped Vinyl HiFiを使用していると思われます。4:35からのソロのトーンは2006年のレスリーを使っていた時にやや似ています
2019年のI Don’t Trust Myself。 アウトロソロではコーラスがオンで、Tri Avatar TA-1HかInspire Tri-Chorus Plusを使っているようです。確実ではないですが、他アングルの映像を見る限りレスリー実機とFlintのトレモロもオンになっている可能性があります。
2019年のGravity。4:48にTri Avatar TA-1Hをオンにしているようです。5:23からのアウトロソロでははっきりとコーラスサウンドが聴き取れます。

トレモロ/リバーブ

ジョンはアンプのスプリングリバーブを好んでいますが、時にはペダルやラックエフェクト等の外部リバーブを使っていることもあります。また楽曲によってはトレモロも重要な役割を果たしています。トレモロ/リバーブは1台に両方が内蔵されていることも多いため、ここではまとめてご紹介します。

Strymon – Flint

2013年以降、かなりの頻度でボードに入っているリバーブ/トレモロペダルです。トレモロは特定楽曲で使用し、リバーブはソロに音の厚みを足したいとき等に使用することが多いようです。

ジョン自身も「必須のエフェクター」の一つにFlintを選んでおり、ベストな小型リバーブを問われた際にもFlintと回答していました。

参考までですが、過去には「アンプインプット前にリバーブを直列に繋ぐと前段の歪みでリバーブ音が酷くなる」旨を語っていたこともありました。常時オンにするメインリバーブはアンプ内蔵のもの or センド/リターンに接続するものを使用し、追加でリバーブを足したいときのみ足元のFlintなどをオンにしているのかもしれません。

いくつか使用例を挙げます。

2013年のWilfire。この曲ではトレモロのみをオンにしているようで、イントロでは独特の揺れ感を聴きとれます。0:50付近ではトレモロ側のLEDが点灯しているのが確認できます。
2019年のSlow Dancing in a Burning Room。2:18~のソロではFlintのリバーブとトレモロをともにオンにしており、幻想的な雰囲気を演出しています。なおこのソロの際にはDelay 80’sもオンになっています。
2014年のGravity。曲の途中まではFlintはオフですが、アウトロソロの途中5:27でFlintのリバーブを追加で踏んだと思われ赤いランプが確認できます。映像ではサウンドの違いはわかり辛いですが、ソロに厚みを持たせるための使用したと思われます。
2016年のDead & CompanyでのTerrapin Station。4:17からのギターソロでFlintとKlonをオンにし、音に厚みを持たせています。
2019年のGravity。この曲は後述するReverberatoのトレモロを使用することが多かったですが、近年はFlintを使用することもあります。イントロのテーマフレーズやコードバッキングに独特の揺れ感が出るのが特徴です。
2021年のDead & CompanyでのViola Lee Blues。11:57辺りでFlintのリバーブを調整しているようで、ここから設定を推測することができます。このツアーではラックの中にUniversal Audio – Golden Reverberatoも置いています。こちらが常時オンで、Flintの方は曲に応じて追加でオンにしているのだと予想されます。
2018年のInstagram Liveより。34:17でトレモロをオンにしており揺れ感を感じられます。音的にはその後リバーブもオンにしているようであり、おそらくFlintであると思われます。
2017年NAMMのPRSブースでのイベント。シグネイチャーアンプJ-MOD 100の紹介です。このアンプはリバーブを内蔵していないため、ライブ等でも外部リバーブを使用していますが、この日はFlintが映っています。3:03からのプレイでしっかりリバーブが聴き取れます。

Victoria – Reverberato

ジョンが2005年のトリオツアーやContinuumのレコーディング時より使用しているリバーブ/トレモロユニット。2010年にはギターテックのルネが「Gravityで使うためのトレモロエフェクトであり、ルネ自身がオン/オフを操作している」という発言をしています。ジョン自身もGravityにトレモロを使用していることは2009年のインタビューで話していました。2016年のトリオライブや2019年ツアーではFlintのトレモロを使うこともありましたが、基本的にはGravityではReverberatoを使うことが多いようです。

2016年のライブより。J-MOD100×2台にReberberato×2台という編成。

また近年、リバーブの無いPRS – J-MOD100やDumble – Overdrive Specialを使用する際には、外部リバーブとしてReverberatoを使うこともあるようです。

2006年のContinuumリリース翌日のTV出演。Two Rockアンプの左側(Matchlessの上)に置いてあるのがReverberatoだと思われます。イントロやバッキングなど、特に複音フレーズの際にはトレモロの揺れを感じることができます。
2009年、Battle Studiesリリース直後でのGravity。上の2006年の映像よりもギターのゲインは高そうですが、やはりトレモロの揺れ感は感じられると思います。
https://youtu.be/TjUActH0aGg?t=31
2017年のSlow Dancing in a Burning Room。この日使用しているアンプはPRS – J-MOD100とFender – Dual Professionalですが、J-MOD100はリバーブを搭載していないためセンド/リターンでReberberatoを使用していると思われます。

Source Audio – True Spring Reverb

ジョンが2019年のDead & Companyツアーで多用していたリバーブ/トレモロペダル。夏ツアーでは足元に、冬ツアーではラックに(恐らくDumbleアンプのセンド/リターン用)それぞれ設置されていました。このツアーでは日々機材が入れ替わっていましたが、Flintと2台並べて設置されていることもありました。

動画をズームするとTrue Spring Reverbを触っているのがはっきりとわかります。なおこちらは筆者のアカウントです。

特に6月の公演ではリバーブが深くかかっており、高音が溶けていくような特徴的なトーンを楽しむことができます。使用期間こそ短いですが、素晴らしいサウンドですのでいくつかの使用例をご紹介します。

6月12日のSugaree。06:30~ のギターソロではエコーたっぷりのプレイを披露しています。このようなサウンドはJM名義のライブではなかなか聴けない、Dead &Co.ならではの音作りといえます。
6月12日のCold Rain and Snow。3:52~ や 8:02~ のコードプレイの残響音が非常に特徴的です。6:25~ 辺りのリードプレイで休符の間に溶けていくようなリバーブも非常に気持ち良いです。
6月14日のブルース曲、It Hurt Me Too。イントロや1:49~ のリードプレイではリバーブたっぷりのサウンドを楽しむことができます。2:21では高音フレーズとスプリング風の残響音の高域が混ざり素晴らしいトーンになっています。
6月15日のMr. Charlie。2:23~ のブルージーなソロでもリバーブがしっかり効いており、単音の後からついてくる残響音が気持ち良いです。
6月15日のFranklin’s Tower。21:25~21:30付近で一弦を弾いた際の高音が溶けていくような感覚が楽しめます。22:01~ では少しずつピッキングを強くしていくのに追従し、エコーもはっきりと聴き取ることができます。
6月14日のSt. Stephen。全編リバーブが深くかかっています。0:45 ~ 0:55辺りのコード演奏がわかりやすく、和音を弾いた後にスプリングリバーブならではのビシャビシャとした音が後からついてきています。

おわりに

ジョン・メイヤーのエフェクターは世界中のマニア達が研究をしていますが、歪みやディレイと比べると今回のような内容に触れられた情報は少なく、面白い記事になったかと思います。

コピーをするにあたって必須のエフェクトではありませんが、「ある特定の時期の音を再現したい」といったファンの皆様には是非お試しいただければと思います。

今後はワウペダルやバッファの考え方にも触れられればと思っています。長い記事でしたが最後まで読んでいただきありがとうございました。

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